■花火

「花火を作ってみたんだ」

そう、久しぶりに鷹斗から連絡があった。
鷹斗と撫子が付き合い初めてから、理一郎は鷹斗とも撫子ともあまり会わないようにしていた。
特に撫子とは会わないように、気を付けていた。
そんな時、鷹斗から連絡があったのだ。

「花火を作ってみたから、皆で集まれないかな」

簡単に花火を作ってみたなどと言えるのが鷹斗らしい。
恐らくは、撫子と付き合い初めた事で課題メンバーと疎遠になりつつあるのを気にしての事だろう。
課題メンバーの中で、鷹斗が一番皆と一緒に居る事を楽しんでいたように思う。
だからこそ、なのだろうが、さてどうしたものかと思う。
彼らに連絡を取ることは然程難しくはない。
それでも連絡をするのは、躊躇われた。
課題メンバーの殆どが撫子に好意を持っていた為、皆、鷹斗と撫子に会うのを出来る限り避けていた。
それは、自分達の為でもあり、仲間である鷹斗と撫子の為でもあった。
理一郎自身がそうなのだから、彼らの気持ちは良く分かる。
ただそれでも、久しぶりに会えるのならば、皆に会いたいという思いもあって。

「どうするべきだろうな」

思わず独り言が漏れる。
家の中に入ってからにすれば良かったと思ったのは、思わず漏れた独り言に、返答があったからだ。

「何がどうするべき、なの?」

誰も居ないはずなのにそう声が掛けられて驚く。
しかもその声は、出来る限り会わないように気を付けいた撫子のもので、内心の動揺を悟られないように、今まで通りに言葉を返す。

「何でもない」
「……まあ、いいわ。ねえ、理一郎。鷹斗から連絡がいったと思うのだけれど」
「ああ、花火を作ったとか言ってたな」
「そうなの。それで、どうかしら?」
「……俺は、特に用事はないが」
「本当に? 鷹斗が喜ぶわ」
「お前は、どうなんだ?」
「私も皆に会いたいけれど。私以上に鷹斗が会いたがってるから」
「相変わらずだな、あいつは」
「鷹斗にとって皆は、大切な仲間、だから」

そう言った撫子の言葉に僅かに混じるもの。
恐らくは、理一郎以外は気付かないだろうそれは、鷹斗が仲間へと向ける思いに対しての、嫉妬だろう。
そんな必要はないのにと思う。
鷹斗は仲間に向ける想い以上のものを、撫子へと向けているのだから。
その想いを鷹斗は躊躇いもなく言葉にするし、分かり易く態度にも表すのだから、撫子だって分かっているはずだ。
それでも嫉妬してしまうくらい、撫子も鷹斗を想っているという事なのだろう。
幼馴染の想いを目の当たりにして、溜息を吐きたくなる。

だから嫌なんだ、と理一郎は思う。
未だに理一郎は、撫子への想いを断ち切れてはいなくて。
それもそうだろ。
小学生の頃、鷹斗が転校してくる以前から、理一郎は撫子を好きだったのだから。
近くに居すぎて、想いを素直に表すことが出来なかった。
子供だったのだ、あの頃は、まだ。
今だって子供だが、あの頃は今以上に、子供だった。
想いを素直に告げる事も、出来なくて。
撫子への想いを隠す事なく表す鷹斗を恥ずかしいとさえ思っていた。
その結果が、これ。
今更悔やんでも遅いが、あの頃もう少し自分の想いに素直になっていたら、結果は違っていただろうか。

「理一郎?」
「お前、まだ居たのか」
「……私だからいいけれど、他の女の子にそう言う事言わない方がいいわよ」

溜息交じりに告げられて、言うはずがないだろうと思う。
その言葉を飲み込んで、理一郎は告げた。

「皆の都合を聞いて連絡する」
「ありがとう。鷹斗にそう伝えておくわね」

そう言って去っていく撫子の後姿を見送る。
鷹斗に会うのだろう。
先程僅かに見えた仲間に対しての嫉妬は既にない。
鷹斗には絶対に教えてやるものかと思いながら、理一郎は撫子に告げた通り、皆に連絡を取る。

それぞれに様々な想いを抱えたまま、鷹斗の作った花火を見る為に皆が集まるのは、もうすぐ。
集まってしまえば、あの頃と変わらない時間が流れるのだろう。
そうして続いて行く、これからもずっと。
あの頃の、ままに。



END



2018/08/31up