■秘めた想い  [作者:春宵 様]

 この想いを何と呼ぶのか?…さぁ、俺にも分からない。
 他のヤツらを気にかけるのと何が違うのかって言うと、それもあまり分かっちゃいない。
 ただ…そうだな。
 『何があっても生き延びろ。』
 いつでも、誰にでも言ってきたその言葉が、あいつに言った時だけ自分にも跳ね返ってくる。

 そんなに言うならお前も守って見せろ…と。
 自分が守れないような命令は響かない…と。
 目深にかぶったフードの下で、ジッと見られているような気はしていた。

 到底敵わない相手を目の当たりにしたら、普通は何とかして生き延びたいと思うもんだ。
 それが仲間なら、何とかして『一緒に』生き延びてやろうという気になるはずだ。
 けど、その理屈はソーマに限っては通らない。
 仲間を失うことを何とも思わない訳じゃないくせに、同じ強さでこうも思っている。

 『死ぬのは弱いヤツだからだろう』
 ―――それだけ聞いたら、生意気なヤツだと思うだろ?

 ソーマにはソーマなりに事情がある。
 あいつがゴッドイーターとして実戦に出たのは12歳の時だ。
 当時から身体能力は飛び抜けていて戦闘では引けを取らなかったが、12って言ったらまだ子供だ。
 自分だったら避けられる攻撃で仲間が死んでいく。
 他のヤツより早くアラガミの気配を感じ取るソーマは、その分『気づいていたのに助けられなかった』という後悔も人より大きいだろう。
 12のガキにその重さを受け止めろって言うのは、ずいぶん酷な話だと思わないか?

 だが、そんな事情を知ってるのは、最初の実戦から一緒だった俺と姉上くらいのものだろう。
 もともと他人と関わるのが得意じゃないあいつが見下すような事を言うから、面白いように孤立する。
 最近では『死神』なんて陰口まで叩かれて、傍に近づくヤツもいない。
 傷ついた顔は、他人を拒絶するようなフードに隠されて誰にも気づかれない。
 ソーマ自身がそれでいいと思ってるせいもあって、ますます孤立する悪循環だ。

 放っておけない、と思ったのがそもそもの始まりだったんだろうな。

 気がつけば視界に入れている。
 また孤立を深める事態になっていれば、フォローに回る。
 本当はいいヤツなんだと、見込みのありそうなヤツに声をかける。
 そこまですれば、リーダーの範疇を超えてるってことくらい、とっくに気づいてはいたんだが。
 まぁ、こっちにもこっちの事情がある。
 手の届く場所に抱え込んで、ずっと傍で『生き延びろ』という自分の言葉を守ってやれるなら、そうするさ。

 ―――ああ。
 そう出来るなら、こっちとしてもどんなに楽だったか。

 ……………
 …………………
 ………………………

 燻らせた煙草の煙が流れるのをぼんやり見つめながら、紡ぐ言葉を考える。
 答えは、今日も浮かばない。
 任務完了後、先に帰ると言ったはずのフード姿が戻って来たのに気づいて、そっと思考を閉じた。
 一休みついでに考え事をしていた間に、思った以上に時間が経っていたらしい。
 遅い、と不満そうな視線を投げてくるソーマにいつもと変わらない軽い調子で答える。

 「よっ。お迎えご苦労さん。」
 「…倒したアラガミの傍でよく煙草なんて吸う気になるな。」
 「もう若くないからな。一休みくらいしないと、動けないんだよ。」
 「……言ってろ。」

 そう心配しなくても、まだ生きてるさ。
 帰還が遅いことを気にかけて引き返して来たんだろうソーマに、心の内でだけ笑いかける。
 今、俺に返せる答えはきっと―――その日まで悟らせない。それだけだと自分に言い聞かせながら。



 END



2010/05/26up


春宵想月 春宵様から頂きました。
リンドウさんの想いは切ないですよね。
抱えている秘密故に、覚悟していたでしょうし。
手の届く場所に抱え込んで〜というのが、凄く切なかったですね。
そうしたいのに出来ないかもしれない。そんなもどかしさが切ない。
「悟らせない」というのは抱えている秘密の事なんだろうと思いますが、想いもその中に含まれているのかなと思ってみたり。
それなはそれでまた、切ないんですが。
ソーマの事を本当に理解して、想っているんだろうと言うのが伝わるだけに、このままずっとと思ってしまいますね。
最後の二人のやり取りは、二人の距離の近さが見えて好きです。
ソーマがこんな風に話すのはきっとリンドウさんだけだろうし。リンドウさんは、ソーマが言わない事も分かるし。
ああもう、ホントずっとこのままで! と思いますよ。
切ないんだけど、こういうのは好きですね。
掲載許可頂き、本当にありがとうございました。
また是非書いて下さい。待ってます♪