■約束  [作者:はてにゃん 様]

「おい 起きろ ちょっと出ようぜ」
「………あ?……眠いからイヤだ」
「そういうなって ホレ」
「………あぁ?……寒いからイヤだ」
「……………黙れ 行くぞ」
「……はあ?どこへ……ちょ…待て…このクソッたれ!」

月明かりに照らされた粉雪の舞う中 半分寝ぼけたままムリヤリ連れて来られたのは教会跡
妙に浮かれているリンドウの後を俺はこれ以上は無いというレベルの不機嫌オーラ全開で歩いていた

「こんな所に何の用だ!」
「そうキーキー怒るなよーもう」
鼻歌交じりで前を歩いていたリンドウがこちらを振り返った

「怒るのが当たり前だ バカ!」
このクソ寒い12月 ご丁寧にも雪まで降ってやがると来た
任務が終ってやっと寝付いたところをたたき起こされた上こんな瓦礫しかない所に連れて来られて
ご機嫌なヤツが居るのかって話だ
あ?ああ…1人いるな…ご機嫌なバカが…何だってんだよ全く

「ほれ 上見てみろよ」
そのご機嫌なバカことリンドウが教会跡の一番奥で立ち止まり とある方向を指差して言った
よくわからんが物凄く嬉しそうだ 俺はマジでムカついてきた

「チッ…何だよ全く…こんな所に何があ…」不承不承指し示された方向を見上げる
ああ そういや上向いたのここ入ってから初めてだっ…た…な…って……

「な…………」
言葉が出なかった

俺達が見上げる先にあるものは月明かりに照らされて幻想的な姿を湛えたステンドクラス
奇跡的に残っていた一枚に月光が差し込み 静まり返った瓦礫の山に色とりどりの影を映し出している
そのステンドグラスの向こうには月と夜空を舞う雪が薄く透けて見えている

瓦礫だらけの殺風景な教会跡にすら厳格な雰囲気を漂わせるその光景に俺は息を呑んだ

「…な?すげえ綺麗だろ?こちらマリア様でございます」
タバコに火をつけながら同じように上を眺めていたリンドウが言った

「ああ…」
上を見上げたまま素直に頷く 

この荒んだ世界にこんなものが残っていたのかと思う程
そしてこんな俺でも素直に感動できる程 それは本当に綺麗だった

今までこの辺りをまともに見回した事も無かったからステンドグラスが残っていた事すら知らなかった
そりゃそうだ ココに来るのはアラガミ討伐の任務の時位のもんだ
そもそも辺りを眺めてみようって気分なんて沸いてこねえからな 遠足でもあるまいし
ましてや用も無いのに好き好んでしかも夜中に出歩く場所でもないからな

「お?珍しく素直だねえ ソーマ君 どうだ驚いただろう 俺って素敵だろう」
圧倒されたまま上を見上げていた俺の横でリンドウは煙を燻らせながら嬉しそうに言った
「………一言余計だ 黙れ」
チッ…せっかく人が珍しくいい気分でいるのに何でこうなんだコイツは

「へいへい 悪かったな でも来てよかっただろ?
今日はクリスマスイブだぜ? 天気もいいから月も綺麗だし いい感じじゃねえかと思ってな
昔はココでミサやって神様にお祈りしてたんだけど ま 神に祈るって事に関しちゃ今の俺達にはありえねえわな」

「ふうん 神に祈る…ねえ 確かにありえねえな ククッ」
「ははっ!今のご時勢祈ってどうなるってんだか 神喰いの俺達は食われて終りだぜ」
「ああ 間違いなくそうだろうな」
「でもたまにはこうやって昔みたいに敬虔な気分に浸るってのもいいんじゃえねかと思ってさ」
「ああ…」
「コレを見てるとさ…どう言っていいのかわからねえけど なーんかこう安心するってーかそんな気持ちになんねえか?」
「……言いたい事はわかる 落ち着くというか何と言うか…俺にも上手く言えねえけどな」

「だろ」
「ああ」

会話が途切れ2人で改めてステンドグラスを見上げた

ステンドグラスの中のマリア様は何も言わない 
けれど全てわかっているような顔をして俺達を見つめている

言葉では無い何か 言葉で伝わる以上の何か
その顔を見ているとかつてここで祈りをささげたヤツ等の気持ちが俺にも少しだけわかったような気がした



ボンヤリとステンドグラスを眺めてどれ位時間がたったのだろうか 
ふと とある疑問がわいてきた

「なあリンドウ 1つ聞いていいか」
「何だ?」
壁にもたれて上を眺めていたリンドウがこちらを向く

「どうして俺なんだ? こんな場所ならサクヤかアリサの方が喜ぶんじゃないのか?
コータも『クリスマスはカップルにとっては一大イベントだったらしいぜ!』とか喚いていたような気がするが」

ププッとリンドウが噴出しながら答えた
「それはカップルの話だろ…サクヤとアリサは俺の彼女じゃねーし あの2人誘ってどうなるってんだ」
「おい…それこそ俺を誘ってどうなるってんだ 俺はお前の彼女でも何でもねえぞ」

すごく全うな意見を言ったつもりだったが何故かリンドウは はあ〜っと大きなため息をついて俺を見据えた
「ソーマ君…そうハッキリ言われると見も蓋も無いんですが…………ま たまたまだ」

……何?たまたまだと?たかが気紛れのせいで俺は夜中にたたき起こされたと言うのか?
絶対嘘だ 何かあるに違いねえんだ コイツが突然こういう事をする場合にはな

「適当な事言うんじゃねえよ」
じろっとリンドウを睨む

「……はいはい わかりましたよ チクショウ 俺の行動パターンを把握しつつあるなコイツ…」
リンドウはしょーがねえなあと言いたげな口調で俺をここに誘った訳を話し始めた

「………あーお前さー最近大分マシにはなったけど ホントだぜ 見てりゃわかるよ でもなあ時々さ…
それでもやっぱ未だに死んじまってもかまわねぇオーラが出てるときがあるんだわ」
何本目かのタバコに火をつけながらポツポツとリンドウが話し始めた

「またその話かよ…………それで?」
前にも同じような事言われたよな 生きてりゃ良い事あるとか周りもっと見ろよとか…

「あーまあ それでだなあ こんな感じの精神が落ち着くようなスポットに行けば荒んだお前も落ち着くかと…
すいません荒んでないですよね 最近は わかってますよハイ…あーもう言わなきゃんねえのかよ…」

一呼吸置いてリンドウがボソッと言った
「お前の事が心配だってのも勿論あるけどな お前と2人でコレを見たかったんだよ それだけだ」

明後日の方向を向いているリンドウの表情は俺からは見えない
でもいつも俺をからかう時のニヤニヤ顔では無いのはわかる 声の感じがさっきとは全く違うからな

それにしても だ 何でこいつはいっつも俺の心配ばっかりしてるんだよ 
心配してくれるのは確かにありがたいとは思う 
でもあいつの中じゃ俺はいつまでたってもデビューしたての新米って事か?
子ども扱いはもう勘弁してくれよ 背中は預けたってのはただの建前か?

「……俺は死なねえよ 大体俺が死んだらお前の背中は誰が面倒みるんだよ
それとな 人の心配する前にちったあ自分の心配しやがれってんだ」
ついでに俺の事もちょっとは信頼しやがれってんだ…

言い終わって横を見ると少し驚いた顔をしてリンドウが俺を見ていた
「ほー…ふんふんコレはちょっとは進歩の兆しかな…」
「な…何だよ」
「いえ 何でもありませんよ? 
ソーマ君も人の心配をしているとちゃんとお話できるようになったなあとお兄さんとても喜んでいる所です」
リンドウのニヤニヤ顔を見ていると真面目に話していた自分がバカらしくなってきた

「な…このクソッたれ! ふざけるな!!…帰るぞ!」
俺はリンドウをほったらかして出口へ向かった
「え…………進歩してるんだからもうちょっと居ようぜ 愛想無いなあ減点するぞ…て待てよーおいーソーマー」
リンドウに真面目な対応を期待した俺がバカだった…と言うか減点ってなんだソレは!

俺は振り返って思わず叫んでいた
「俺は明日も仕事だ!」

即座にそれがどうしたよーとでも言いたそうなリンドウの物凄くだるそうな返事が返って来た
「俺も明日も仕事だぜー」

「「………」」
無言で顔を見合わせる

「あーもうーしゃーねえぁ じゃあ帰るか」
よっこらせともたれていた壁から離れリンドウが渋々出口へ向かう
教会を後にする時 名残惜しそうにリンドウはステンドグラスを振り返りながら言った
「なあ また来年も見れたらいいな」

何?明日もまともに来るかどうかの補償もないってえのに来年の話ってのはどういう事だよ
呆れて思わずこんな言葉が口をついて出た
「………来年の話なんてすると鬼が笑うぞ」

その言葉を聴いた途端リンドウはありえねえーって顔をしながら俺を見て言った
「……お前よく知ってたなそんな古い諺」
「……てめえ俺の事すげえバカだとおもってんじゃねーのか?」
子供扱いもいい加減にしてくれよ 俺はコータほど子供じゃねえしバカでもねえ!

「バカだとは思ってはいないがすげえニブちんだとは思ってはいる」
「はあ?何だよそれ 意味わかんねえ」
マジでわかんねえぞ…一体何が言いたいんだ ニブちんだと?…俺がそんなに鈍いってのか?

「テメエ!俺の何処が鈍いってんだよ!」
「……………だからニブちんなんだよ バカ…ま はっきり言わねえ俺も悪いのかね」
リンドウは再度ため息をつきつつ俺の横までくると腕を引っ掴み
そしてそのままずるずるとそこに突っ立っていた俺を出口へと引っ張っていった

「はいはいはい〜明日も仕事だ頑張るぞーっと 帰って早く寝ようぜ〜」
「何なんだよさっきからわかんねえ事ばっかり言いやがって!!それにだ!そもそもお前だろ!
夜中にココにムリヤリつれてきたのは!離せっ」
「はいはい 駄々こねない〜それと離さない〜」
「こねてないだろ!だから離せっ!」

大騒ぎしながら教会を後にする俺達をマリア様は先程と変わらない神々しさで見送ってくれた
その顔が見えなくなった頃 リンドウはいきなり俺の肩を引き寄せ物凄く真面目な声でこう言った

「来年も来るぞ 約束したからな 死ぬなよ」
「……何だよ 急に真面目になるなよ…驚くじゃねえか…」
いつものふざけたリンドウ相手なら軽口も叩けるけど真面目なリンドウにはどう反応していいのかわからない

「真面目に言ってんだよ 約束だからな 忘れんなよ」
俺の目を真っ直ぐ見て「約束だ」と言うリンドウ その目を見ていると何だかよくわからない気持ちになる
ずっと見ていたいような……でも見ていたくないような不思議な気持ち 
そして少し顔が赤くなるのが自分にもわかる

「…わかったよ…」
そんな自分の気持ちがよくわからなくて思わず目をそらして返事を返す

「よし!約束だからな 忘れんなよ」
「……お前もな……だから…離せよ」

「イヤ」
あっという間にいつものリンドウに戻っていたので少しほっとした
今の俺にはこっちの方が安心する あのままだったら自分がどうなっていくのか自分でもわからない

「……殺す 帰るぞ」
俺もいつも通りの返事を返す
「…すいません そうですね 早く帰りましょうね」
俺から離れたリンドウからもいつも通りの返事が返ってくる 

アナグラまでの帰り道 リンドウが突然叫んだ
「あ!1番大事な事を忘れるとこだったぜ!」
「何だよ…」


「I wish you a merry Christmas!」

どうか楽しいクリスマスをすごされますように



 END



2010/12/24up


はてにゃん様から頂きました。
ソーマは確かに、恋愛ごとに関しては物凄く鈍いと言うイメージはありますが。
分かって上げて! と思わず思ってしまいました。
まあ兄貴なリンドウさんも好きですが。
いつ、リンドウさんの思いは成就するんでしょうね。
約束をする事で来年もまたその次も一緒に居られると、とリンドウさん自身も思いたかったのかなあと思いました。
ああいう仕事ですからね、不確かな約束でも、何かが欲しいんだろうな、と。
来年もその次も、共にクリスマスを過ごせるようにと、読みながら願ってしまいました。
いやあ、良いですねホント♪
なんかもう、リンドウさんの想いに気付いて上げてと思う反面、ずっとこのままでとも思ってしまう。
ホント良いなあ。
私には一足早くサンタさんが来たようで、本当に嬉しいです。
また何か書けたら是非送って下さいね。お待ちしてます。
本当にありがとうございました。