■正解?

任務を終えてアナグラへと戻る。
自室へと戻る為にエントランスを歩いていると、ユウトを呼びとめる声が聞こえた。
戻って来てから何故かリンドウまでもが、ユウトをリーダーと呼ぶ。
頼むから止めてくれと何度言っても相変わらずリンドウはユウトをリーダーと呼んだ。
溜息を吐きつつ立ち止り振り返れば、リンドウが言葉を紡ぐ。


「この後あいてるか?」
「はい、あいてますが」
「悪いんだが、一緒に任務に行ってくれるか」
「いいですよ。って二人でですか?」
「お前が行ってくれるなら二人で十分だと思うぞ」


そう言うリンドウの言葉にユウトは考える。
とある人物を思い浮かべて、確かあいているはずだと思う。


「ちょっと待ってて下さい。確か――」


言いながらユウトは受付へと近付いた。
ヒバリにソーマは、と聞けば、任務は入っていないはずですと返ってくる。
それを聞いてユウトは携帯端末を取りだす。
ソーマの携帯端末へと掛ければ、直ぐに応答があった。


「悪い、ソーマ。あいてたら同行頼めるか?」
「今からか」
「そうだね。いいかな? エントランスに居るんだけど」
「ああ。直ぐ行く」


そう言って端末が切られる。
ずっとそのやり取りを聞いていたリンドウは、二人で十分だと言ったくせに、何も言わなかった。
リンドウがソーマの同行を拒否する事などないと知っているし、それに――。
リンドウとの任務の場合ソーマが同行してくれるとユウトが助かるのだ。

エレベーターを降りてきたソーマに、リンドウが片手を上げる。
それを見たソーマが眉を寄せるのが見えて、思わずユウトは苦笑した。


「おい、何でこいつが居るんだ」


リンドウを指差しながらソーマはユウトに問う。
素直じゃないねと思いつつ、ユウトは言葉を紡いだ。


「リンドウさんに同行を頼まれた任務だからね」
「……何で俺を誘う」
「嫌なの?」
「そんな事言うなよ、ソーマ」


ユウトが言葉を紡ぐのとほぼ同時に、リンドウが言葉を紡ぐ。
悲しげにも聞こえる声で言われて、ソーマは視線を彷徨わせて告げた。


「誰も、嫌だなんて言ってねえ」
「ならいいね。行こうか」


ソーマの気が変わらないうちにと、ユウトがヒバリにミッションを受注する旨とメンバーを告げる。
本来ならリンドウの役目のはずなのに、リンドウは任せたと言ったきりソーマを構っていて――思わずユウトは溜息を吐きだす。
何だかんだ反抗するような言葉を吐きつつも、ソーマも嫌がっていないのは見ていて分かるから。
疲れる、とユウトは思う。
だがそれでも、リンドウと二人で任務へと行くよりは、ソーマを連れて行った方が良いとこの時は思っていた。
それが正解だったのかは、結局分からないが。

場所は廃寺。
討伐対象はプリティヴィ・マータ一体と、小型アラガミ多数。
内容だけ見れば、リンドウにソーマ、そしてユウトという極東支部トップクラスのゴッドイーターが揃って出てくるような任務ではない。
だが、ザイゴードにコクーンメイデン、オウガテイルにヴァジュラテイル。
それぞれの堕天種まで。
他の場所からも集まって来たんじゃないかと思う程の数の小型アラガミが、そこにはいたのだ。
最終的に一人で何体のアラガミを倒したのか分からない程。
皆で固まって戦うのは得策じゃないと判断し、それぞれに何体かずつ引き付けて分断する方法を取る。
今のところはまだ、プリティヴィ・マータの姿はなかった。

どうにか倒し終えて、ソーマかリンドウどちらかに合流しようとユウトは走り出す。
走り出して直ぐに、リンドウがこちらへと向かってくるのが見えて、二人でソーマに合流する為に再び走り出した。
ソーマの元へと行けばそこには、プリテイヴィ・マータが居て。
どうやら、ソーマは一人で小型アラガミとプリティヴィ・マータを相手にしていたらしい。
小型のアラガミはザイゴード二体を残して、他は全て片付いていた。
銃形態へと切り替えて、ザイゴード一体に狙いを定める。
ちらりと隣を見れば同じようにリンドウも銃形態へと切り替えてザイゴードへと狙いを定めていた。
視線を交わすだけで互いにどちらを狙うか確認して、撃つ。
数発撃ち込めばザイゴードは地に落ちて、倒した事を確認して直ぐにユウトはプリティヴィ・マータへと向かって走り出した。
そこからは、ユウトとソーマが剣で攻撃して、リンドウは銃主体で戦う。
戻ってきてからのリンドウは、新型同様神機を切り替える事が出来るようになっていたが、どちらかと言えば銃で戦う事の方が多いように思えた。
ただ問題は――。
プリティヴィ・マータの頭部へイーブルワンを叩きこんだソーマが、呻き声を上げて吹っ飛ぶのが見える。
その後すぐに聞こえてきたのは、


「斜線あけてくれ」


というリンドウの声だった。
ああ、やっぱり、とユウトは思う。
立ちあがったソーマは、リンドウを睨むように見て、けれど直ぐにまたプリティヴィ・マータへと斬りかかった。
それを見てユウトは素早く銃形態へと切り替えて、少し離れて回復弾をソーマに撃ち込む。
何故かリンドウは銃主体で戦うのに、回復弾を撃ってはくれないのだ。
そうして再び剣形態へと切り替えて、プリティヴィ・マータに斬りかかる。
どうにかプリティヴィ・マータを倒して、捕喰する。
素材を確認していれば、リンドウの溜息交じりの声が響いた。


「新人連れてこなくて良かったわ」


リンドウのその言葉を聞いて、ユウトも思わず頷いていた。
小型のアラガミとプリティヴィ・マータ一体。
リンドウが一緒なら新人でもどうにか倒せるレベルの任務だ――小型アラガミの数がここまで多くなければ。
半端なく小型アラガミの数が多かったのだ。
リンドウとソーマ、そしてユウトだからこそ、それぞれアラガミを引きつけて戦えたが、これが新人ならば、小型とは言え一人で多数のアラガミを引きつけて戦うなど流石に難しい。
そうなれば、他の者の負担が大きくなって――怪我人が出る可能性が高くなるのだ。
ソーマを連れて来て良かったと、当初の目的とは別の意味でもそう思う。
ちらりとソーマを見れば、不機嫌そうな表情でリンドウを見据えていた。


「リンドウ」
「ん? なんだ」
「お前、何で俺ばっかり撃つんだ!」


我慢の限界だったのか、ソーマが怒りも露わに叫ぶ。
リンドウは戻って来てから新型同様、剣と銃を切り替えて戦うようになって、どちらかと言えば銃で戦う方が多かったが。
問題は……誤射が結構多いのだ。
カノン程酷くはないが、それでも他の遠距離の仲間に比べれば格段に多い。
ユウトがソーマを連れ来た理由は、そこにあった。
ソーマが居ると、リンドウはソーマを撃つ確率が高くなる。
そのお陰でユウトは誤射される率が下がるのだ。


「悪い。わざとじゃないんだけどな」
「当たり前だ」
「そんな怒るなって。つい見ちゃうんだよな」
「……何をだ」
「ソーマを、に決まってるだろ」
「――っ、戦闘中に何考えてるんだ、お前は!」


顔を赤くして叫ぶソーマを、リンドウが目を細めて見つめながら宥める。
「先に行ってる」と声だけを掛けて、やってられないと思いユウトはその場を離れた。
とてもじゃないが見ていられないと思う。
ソーマを見つめるリンドウの目は、優しくて温かくて、本当にソーマを想っているのが伝わってくる。
だが、そんなものを見せられる方の身にもなってくれと、ユウトは思っていた。
その場を離れる直前、視界の端に、暴れるソーマを腕の中に捕らえて満足気な表情をしているリンドウが映ったが、見なかった事にした。

しばらくの間聞こえてきたソーマの「放せ」だの「何考えてる」だのと言った声は直ぐに聞こえなくなる。
まあまだ、帰投する時間まで間はあるから、いいかと思う。
二人の居る場所に行って、帰ると言うくらいなら、ここで戻って来るのを待っていた方がマシだと思っていた。

そろそろ帰投時間だと思った時に、妙に大人しいソーマがリンドウに連れられるようにして戻ってくる。
普段より目深に被ったフードからちらりと見えたのは、赤く染まったソーマの顔だった。
思わず目を見開いてソーマをじっと見れば、隠すように視界を遮る影。
見上げれば、リンドウがユウトとソーマの間に立っていた。


「帰るぞ」


そう告げて、何事もなかったかのようにリンドウは装甲車に乗り込んで、それに続いてソーマも乗り込む。
呆然と二人が車に乗り込むのを眺めていれば、「置いてくぞ」というリンドウの声。
待っていたのはこっちだと思いつつ、ユウトも乗り込んだ。

リンドウに撃たれない為にソーマを連れて来たのは正解だったが。
――本当に正解だったのだろうかと、ユウトは思う。
こんな事なら、撃たれた方がマシかもしれない、と。
そう思いながら、深い溜息を吐いた。

けれど、仕方ないなと思ってしまう。
離れていた間の二人を思えば、仕方ないんだろう。
どちらもがきっと、覚悟をしていたんだろうから。
もう二度と会えないのだと、思っていただろうから。

だがそれでも、時と場所は考えてくれ、と思う。
そして、この二人と一緒の任務には、今度はコウタも巻き込もうと思っていた。



END



2010/11/19up