■それぞれの、想い

ぐったりとベッドに沈み込み、目を閉じるソーマの隣で、リンドウは煙草をふかす。
煙を吐き出し、持ってきた灰皿に灰を落として、隣へと視線を向けた。
そのまま手を伸ばしてソーマの髪を撫でる。
その感触に、ソーマが薄らと目を開いた。
先程までの濃密な空気の残る部屋で、微睡む。
髪を撫で続けていると、鬱陶しいのかソーマがリンドウの手を払って。
仕方なくその手を引いて、再び煙草をふかす。
煙草が短くなって、それを灰皿へと押しつけて――リンドウはふと思った事を聞いてみようかと口を開いた。


「なあ、ソーマ」
「……」


喋る気力も残っていないのか、ソーマは視線だけでリンドウに言葉の先を促す。
じっとそんなソーマを眺めるように見て、リンドウは思い立ってベッドから降りる。
冷蔵庫を開けて、中からミネラルウォーターのボトルを取り出す。
そうして再びベッドへと戻ってキャップを僅かに緩めて、ソーマへと差し出した。
リンドウの行動を目で追っていたソーマは、差し出されたそれを見て、うつ伏せになる。
その状態でそれを受け取って、中味を飲む。
半分程一気に飲んで、ソーマは無言でそれをリンドウへと差し出した。
差し出されたそれを受け取って、残りをリンドウが飲み干す。
空になったボトルをベッドの下に置いて、ソーマへと視線を向ければ、促すような視線を向けたままソーマはリンドウを見ていた。


「お前さ、何でいつも抵抗すんの? ずっと気になってんだよなあ」


つい先程までこのベッドの上で行われていた情事。
リンドウが行方不明になる前から、リンドウとソーマはそういう関係で。
決してソーマが嫌がっている訳でもないのは分かっているが。
それでも、ほぼ毎回必ずと言っていい程最初抵抗されるのだ。
じっとリンドウを見ていたソーマが、呆れたように深い溜息を零して、言葉を紡ぐ。


「一度俺の立場になってみれば、分かる」
「いや、それはちょっと、なあ……」


困ったように言うリンドウを見て、ソーマはそれはそうだろうと思う。
今更、そう今更。
反対の立場になりたいとは思わないし――そもそもこういった方面でソーマがリンドウに敵うはずもなかった。
だから、リンドウにはソーマの気持ちは分からないだろう。
嫌な訳ではないのだ。
ただ、ソーマも男で、当然だが男を受け入れるようには出来ていない。
身体もだが、心も。
受け入れると言う事に、どうしても抵抗がある。
身体的な負担よりも、精神的な負担の方が大きい。
羞恥が先に立つというのもあるが。
だからどうしても、抵抗してしまうのだ。
そのせいで、会えない日が続いても、会いたいと素直に言えない。
会えばどうしたって、何もなく終わる事はないし、そうなると気持ち的な意味でどうしても僅かな抵抗を感じる。
そしてそれは、態度に現れてしまうから。
重ねて言うが、嫌な訳ではないのだ。
会いたいとも思うし、会えば触れあいたいとも思う。
こればかりはもう、どうしようもないんだろう。
恐らくは、本能的な部分なのだろうから。


「別に、嫌な訳じゃねえ」
「それは分かるんだけどな」
「なら、それでいいだろう」
「良いんだけどな。なんつーか、抵抗されるのを押さえ付けてってのもまあ、むしろ煽られるというか――」


むくりとソーマは起き上がり、そのままリンドウを殴りつける。
そのせいでリンドウはそれ以上言葉を紡ぐ事が出来なかった。
殴られた頬に触れて、リンドウは言葉を紡ぐ。


「いってーな」
「お前が悪い」
「本当の事言っただけだろ」


そう言うリンドウを睨みつけて、ソーマはベッドから降りる。
そのまま浴室へと向かうソーマの背を眺めて、リンドウは肩を竦めた。
後追って浴室へと入って行けば、追い出されるだろうと思い、煙草を取り出す。
火をつけて煙を吐き出して、溜息を吐きたくなるのを誤魔化した。
何となく、分かる気はするのだ、ソーマの気持ちも。
それでも、止められない。
受け入れる側の負担は、相当のモノだろうと思っても止められない。
いつの間に此処までと思い、再び煙を吐き出す。
恋愛に関して、それ程相手に溺れる性質ではないと思っていた。
過去を思い返してみてもそれは間違いない。
それなのに――自分よりも8つも下の相手に此処まで、とは。
まあそんな事言う気はないけどな、と思いリンドウは灰皿へと煙草を押し付ける。

さてと、追い出されるのを覚悟で、浴室へと乗り込むか。
そう思いながらリンドウはベッドから降りた。



END



2010/11/23up