■約束 〜その後〜
アナグラへと帰還して、エントランスを足早に突っ切る。
オペレーターのヒバリにミッションが無事終了した事を伝えて、ソーマは自室へと向かうべく足を進めた。
途端に、携帯端末がメールの受信を知らせる。
携帯端末を取りだして、受信したメールを開いた。
メールの送信者は、現第一部隊のリーダー。
榊博士の部屋へと来るように、というモノだった。
そのメールで今日がどういう日か思い出す。
昨年までは、今日と言う日には必ずリンドウからメールが送られて来ていた。
そうして二人で他愛もない時間を過ごすのが常だった。
来年も――そう、約束したはずだった。
約束とも呼べないモノかもしれないが、それでも。
6年間それは破られる事がなかったのだ。
けれどもう、その約束が叶えられる事はない。
思わず携帯端末を強く握りしめていた。
ソーマの19回目の誕生日。
第一部隊の面々とシオが、きっと榊博士の部屋に居るのだろう。
祝って貰えるのは素直に嬉しいと思う。
けれど、拭えない寂しさががあるのもまた、事実だった。
「来年も――そう、言ったじゃねえか」
ぽつりと呟く。
6年間破られる事がなかった約束。
けれどもう、二度と叶えられない約束。
榊博士の部屋へと行けばきっと、煩いと思う程に賑やかだろう。
寂しいなどと思う間もないくらいに。
それでも――きっと拭う事は出来ない。
とは言え、行かない訳にもいかなかった。
現第一部隊のリーダーのユウトは、リンドウよりも強引なところがあるから。
恐らく行かなければ無理矢理連れて行かれるだろう。
ユウト独りならば、振り払う事も出来る。
コウタと二人で抑え込まれると、流石に逃げ出すのは困難だった。
シオを連れてこられれば尚更厄介だ。
あんな外見でも彼女はアラガミだ。
人よりは力が強いソーマでも流石に叶わない。
無駄な体力を使うくらいなら、そう思いながら、ソーマは榊博士の部屋へと向かった。
ノックをすれば、開いていると中から声が聞こえてくる。
扉を開けて中に入れば――。
「誕生日おめでとう!」
一斉に声を掛けられる。
何も返事を返さないソーマの事など気にも留めないのか、ソーマをソファへと座らせて、食べようと誰かが言う。
それにコウタが元気に答えて――そうして、賑やかな時間が幕を開けた。
静かな他愛もない時間を過ごした昨年までと違い、煩いと思えるほど賑やかで。
けれど、温かい時間。
拭えない寂しさは奥底へと押し込めて、ソーマの隣であれこれと聞いてくるシオに答えてやる。
殺伐とした日常を忘れる程、賑やかな時間だった。
もう二度と、約束が叶えられる事はない。
その代わり、新たな時間を過ごして行くのだろう。
拭えない寂しさを抱えたままで――。
END
2010/10/17up