08. もうどこにもいなくて
行方不明になったリンドウの神機も腕輪も見つかってはいないのに、捜索は打ち切りになった。
任務のない時間に、ソーマはリンドウの部屋へとやって来る。
中へと入り、入口付近に佇んだまま、辺りを見渡した。
部屋の中は、リンドウが居た頃のままで、何一つ変わった所がない。
部屋に染みついているのか、リンドウが吸っていた煙草の匂いがして、思わずそこにリンドウが居るのかと視線を巡らす。
いつもと変わらない様子で煙草を吸う姿が見えた気がして――けれど、何処にもその姿はない。
何一つ、リンドウが居た頃と変わってはいないのに、ただその存在だけがなかった。
「リンドウ」
思わず呟いた名前に、返事が返る事はなく、静かな部屋に消えて行く。
「ソーマ」と名を呼ぶ声も、煙草を吸いながら、片手を挙げて近付いてくる姿も。
鮮明に思い出す事が出来るのに、その姿は何処にもない。
再び嗅ぎ慣れた煙草の匂いがして、やはりこの部屋の中にその存在が在るのではないかと、捜す。
さして広くない部屋を隅々まで見渡して、けれど、求めている存在を見つける事は出来なかった。
この部屋にリンドウが居ない事など分かっていたはずなのに、改めてその事を理解する。
ああもう本当に、どこにもいないのだと思う。
この部屋にも、アナグラにも――そして、この世界の何処にも、居ないのだと理解する。
けれど、頭でそれを理解しても、受け入れられない。
かと言って、どこかに居るはずだと、思う事さえ出来ずに。
中途半端な、何処にも行き場のない想いを抱えて、苦しくて仕方がない。
ドンっと壁を殴りつけて、息を吐き出す。
それでも、行き場のない想いを吐き出す事は出来ずに、苦しさは増すばかりで。
それなのに、此処から立ち去る事さえも出来ない。
リンドウが確かに此処に居たと言う痕跡の残るこの部屋に居るのは苦しいのに、それでも未だ残る痕跡に縋りたくなる。
どうすればいいのか、ソーマ自身にも分からないのだ。
何がしたいのか、どうすればいいのか、分からない。
壁に背を預けるように立って、そのままずるずると座り込む。
そうしてソーマ以外誰も居ない部屋の中を見渡した。
こんなにも、この部屋はリンドウが居た痕跡を残しているのに、その存在はどれだけ捜しても、ない。
部屋の中へと入って行く事も、この部屋から立ち去る事も出来ずに、入口付近の壁に寄り掛かり座り込んだまま、ソーマは部屋を見渡す。
悲しいのか寂しいのか、それさえも良く分からない。
ただ分かるのは、胸を圧迫するような苦しさだけ。
息をするのさえ辛いと思う程の苦しさを抱えたまま、ソーマは任務の時間になっても姿を現さないソーマを呼ぶ声が聞こえるまで、その場所に座り込んでいた。
END
2011/01/07up