■A few years later

明日仕事が休みの日の夜、鳴上と陽介は良く二人で飲む。
陽介から誘ったり鳴上から誘ったり。
事件のあった高校の時から数年後もこうして二人は一緒に居る。
お互いに、別々の会社にではあるが、就職していた。
まあ、大学も別々の大学だったんだが、同じ大学の友人とよりも、鳴上と一緒に居た時の方が多い気がする。
高校の時から変わらない関係だった。
そう、変わらないのだ。
その事自体は、嬉しい。
だが、自分の中にある想いに気付いてしまった以上、嬉しいだけではない。
複雑だと陽介は思う。
嬉しい反面、苦しい。
はあ、と溜息を吐き出せば、向かい側で飲んでいた鳴上が、言葉を紡ぐ。

「どうした、溜息なんか吐いて」
「お前、彼女と別れるの、何度目だよ」
「人の事言えないだろ」
「まあ、そうなんだけどさ」
「……」
「俺たち、何で続かないんだろうな」
「……さあな」

どうにか、誤魔化して、煽るようにグラスの中の酒を飲み干す。
ここは鳴上の部屋だから、酔い潰れても問題ないと思っていた。
彼女と続かない理由。
少なくとも陽介は自分が何故彼女と続かないのかは分かっていた。
鳴上が続かない理由は、分からないが。
陽介が彼女との付き合いが長続きしない理由、それは。
陽介にとっての一番が、付き合う彼女じゃないからだ。
毎回付き合う彼女の事は好きだ。
それだけは、間違いない。
そして、今度こそ彼女が一番になれるんじゃないかと思い、毎回付き合うが……結局陽介にとっての一番の座は、変わらない。
この想いが報われることはないと分かっているのに、それでもどうしても、陽介は鳴上が好きなのだ。
友人としてではなく、だ。
鳴上が陽介の事を友人としか思ってない事は分かっている。
だから、伝えるつもりはなかった。

「で? 今回別れた理由は?」
「……貴方の一番は私じゃない、だそうだ」
「またかよ。お前、他に好きな奴いるのか?」
「……どうだろうな」
「はっきりしろよ」
「彼女達は良く、陽介を引き合いにだすからな」
「どういう意味だ?」
「陽介くんと私、どっちが大切なの? とか」
「……」

僅かに声のトーンを上げ、女っぽい喋り方をする鳴上に、鳥肌が立つ。
恐らくは彼女達に言われたのを真似てるんだろう。

「普通に言えって」
「分かり易かっただろ?」

そう言って笑って、鳴上はグラスを空ける。
こんな時間がずっと続けばいいと、そう思っていた。
いや、続くんだろう、陽介が自分の想いを秘めている限りは。
鳴上と出会った高校の時は、数年後もこうして共に在ることを望んでは居たが、実際に叶うかどうかは自信がなかった。
それが叶って、けれど今はそれ以上を望んでいる。
――数年後も今と同じ関係のままなのだろうか。
今と全く変わらない二人が容易に想像出来て、思わず溜息を吐き出しそうになるのを堪える。
浮かんだモノを追い出すように、言葉を紡いだ。

「彼女と約束あるなら、そっちを優先したっていいんだぞ」
「彼女との約束が先だったら、そうしてる」

そう言えば、陽介が誘った時、彼女と約束があるからと断られた時はあった。
鳴上は誰かを特別に扱う事はあまりない。
たとえそれが彼女だろうと、先に誰かと約束していればそちらを優先する。
昔からそういう奴だ。
そして毎回思うが……鳴上は彼女と別れてもあまりショックな様子ではないのだ。
今回も、誘ったのは鳴上で、こうして鳴上の家で飲んでいるが、はっきり言って普段とあまり変わらないように見える。
元々あまり表情が変わらない奴だが、そういうのじゃないのだ。
流石にこれだけの年月共にいれば、表情に出なくても分かる。
まして元々あまり感情を表に出すタイプじゃないから、そんな奴と何年も一緒に居れば分かるようにもなる。
だから、この際だから聞いてみる事にした。

「なあ、鳴上」
「なんだ?」
「お前さ、彼女と別れても毎回あまり落ち込まないよな」
「陽介は毎回かなり落ち込むな」
「俺の話はいいだろ」
「……どうしようもないからな」
「……そうだけど」

それでも、と思ってしまうものじゃないだろうか。
だからこそ、落ち込んだりもする。
だが鳴上は毎回想いを引きずることもなく、早々に気持ちの整理をつけるのだ。
――だから思う。他に誰か好きな人がいるんじゃないのか、と。
それが誰なのか気になるが、聞く勇気は、ない。
聞きたくても聞けなくてもやもやする。
そんなもやもやとしたモノも、自分の内に確かにある想いも、抑え込むようにグラスの中身を飲み干す。
空になったグラスが再び満たされて、またそれを飲み干す。
会話もないままただ酒を飲み、そんな空間が決して居心地の悪いものじゃない。
そうして――かなりの量を二人で飲み、陽介は酔い潰れて、意識が遠のいていく。
そんな陽介の耳に鳴上の呆れたような声が届く。

「全く、何で気付かないんだ」

何に、と問いたいが声は出ない。
ふわりと背に何かを掛けられて、その暖かさに抗えそうになかった。

数年後もその先も、こうして共に在れたらと願う。
だが出来れば――そう思った途端に、陽介の意識は完全に途絶えた。



END



2014/01/26up : 紅希