■こんな時に限って

2月16日放課後。

「鳴上、今日予定あるか?」
「いや、ないけど。どうした?」
「なら、テレビの中に一緒に行かないか?」
「……まあ、いいけど」
「あー、うん。終わったんだろうなってことは分かってるんだ。それは大丈夫。ただ、なあ。万が一に備えたいというか、もう少し強くなっておきたいというか」

陽介の言いたいことも分からないでもない。
全部終わった、と思いたい。
けれど、未だに分からない事がある。
鳴上だけが他の皆とペルソナを得た経緯が違い、最初からテレビに入れた。
それが何故なのか分からなくて、だからなのか、全部終わったはずなのに、なんとなくまだ何かあるんじゃないかと思ってしまう。
それに、結局テレビの中の世界が何なのかも、分かっていない。
結構分からないことがまだあるんだなと改めて思う。
それら全てが解明されるのかされないのかは分からないが、強くなって損はないだろうから。

テレビの中で戦う日々が、非日常が当たり前になりつつあって、もう戦わなくていい日常に戻ってもテレビの中い行かなくてはいけない気がして、特に雨が降ると落ちつかない。
だから、以前のような日常に戻りつつある今も、何となく落ち着かなかったりする。
放課後は仲間の誰かが鳴上を誘いに来る事が多いから過ぎて行ってしまっていたが、今日はそれもない。
そう言えば二日前は凄かったな……、と思う。

「おーい、鳴上?」
「え? ああ、いや、ちょっと二日前の事を思い出して」
「あ、ああ。あれは、凄かったな……」

二人同時に溜息を吐き出す。
あれは本当に凄かった。
掴み合いの喧嘩が始まった訳ではないが、女性陣の間に漂うなんとも言えない空気が……あれは、二度と経験したくない。

「それはいいから、テレビの中行こうぜ」
「ああ、分かった」
「どこに行くかは任せる。あ、完二のところ以外な」
「……分かった」

陽介と行くのならと鳴上が選択したのは『秘密結社改造ラボ』。
直斗の影と戦った場所だ。
確かここが一番風弱点のシャドウが多かった覚えがある。
後は、陽介が一緒なら――、と鳴上はテレビの中に入る前に、四六商店に寄り足りないアイテムを買う。
そしてベルベットルームでバットステータスを回復出来るスキルを持ったペルソナへと付け替える。
そうして二人は、『秘密結社改造ラボ』と呼ばれるダンジョンへと入って行った。


どのくらい戦っただろうか。
現れたシャドウを見て、鳴上は苦笑する。

「なあ、鳴上」
「なんだ」
「ここってこんなに風属性吸収や無効のシャドウばっかりだったっけ?」
「そんなことはない。他に比べたら風弱点のシャドウが多かった覚えがあるんだが」
「だよなあ。なんで鳴上と俺二人しかいないときに限って、風弱点のシャドウが出ないんだよ!」
「それはやっぱり、陽介の運が……」
「あー、分かってるからそれ以上言うな!」

全ては陽介の運が悪いせいなんだろうと鳴上は思う。
こんなにシャドウが偏って出てくることはそうない。
どちらかと言えばここは直斗を連れてくるのが一番いいのは分かっている。
全てのシャドウの弱点を覚えている訳ではないが、確かここが一番風弱点のシャドウが居たと鳴上は記憶していた。
もっと初期の頃のダンジョンなら――とは言え、今更陽介のシャドウが居たところなどに行っても仕方がない。
今初期のダンジョンに行っても物理攻撃一撃で戦闘が終わってしまうからだ。
どうせなら、少しは強くなれるところに行った方がいい。
そう思い選んだダンジョンだったが、流石にこれは、どうなんだろうか。

「流石だな、陽介」
「それは嫌味か!」

互いにシャドウへと攻撃して、話す。
嫌味のつもりはないが、陽介だなとは思う。
それでもこうして共に戦って、一番信頼できるのもまた、陽介だと実感していた。

「頼りにしてる、陽介」
「おお、任せとけ」

互いに笑い合って、シャドウへと攻撃する。
あの頃は、こんな日々が早く終わればいいと思っていた。
戦いのない日が早く来ればいいと思っていた。
今でも思ってはいる。
けれど、仲間と集まる機会が減って寂しさがあるのも確かだ。
あと一か月程でこの町を去るから尚更なのかもしれない。
仲間達は皆それぞれに鳴上の元へと来てはくれる。
放課後一緒に過ごそうと誘ってもくれる。
けれどやはり、全員で集まる機会はあまりない。
かけがえのない仲間だと思うからこそ、どうしても寂しく思ってしまう。
日常を取り戻せたことは、良かったと思うが。

陽介の一撃でシャドウが消える。
それが最後だったのか、辺りに他のシャドウの気配はなかった。

「やっと終わったみたいだな」
「そうだな、戻るか」
「ああ」

ジュネスの家電売り場へと戻る。
相変わらずここには人が居なくて、お陰で誰に見られることもなく戻れるのはありがたい。

「やっぱり二人だけだと結構大変だな」
「そうだな」
「けど、その分強くなった気もするから、またよろしくな」
「ああ。今度は陽介にどのダンジョンに行くか選んでもらうか」
「なーんかもう、どこ行っても一緒のような気がする」
「だろうな」

陽介が陽介である限りは、どこに行っても一緒だろう。
だが陽介が陽介である限り、鳴上にとっては頼りになる相棒であることに変わりない。
仲間は皆大切だし信頼しているが、それでもやはり陽介が一番信頼出来る。
どこだろうと、陽介が一緒ならば大丈夫だと思えるから不思議だ。

また、よろしくな。と互いに言い合って家へと向かう。
こんな日々を過ごせるのも後少し。
結んだ絆は離れても変わらないと信じているが、こんな風に放課後に一緒に、という事は出来なくなる。
ずっとここに居られたら――叶わない事を思う。
共に在れるのも後少し。
思いっきり楽しもうと思いながら、家へと向かった。



END



2018/11/23up : 紅希