■笑顔
テレビの中に入り、P1グランプリというものに出る羽目になる。
やっとそれも終わり、あとはテレビの外へと出るだけという状況で、皆集まっていた。
稲羽に戻ってきて再び事件に巻き込まれるとは思っていなかった。
こう続くと、なんだか自分が事件を呼び寄せているんじゃないかと思ってしまう。
そんなことを思い、溜息を吐き出す。
途端に「どうした?」と陽介から声がかかった。
「……」
何でもない、と答えようとして、黙り込む。
溜息を吐いた理由とは別に、気になることがあった。
テレビの中で出会った、自分達以外のペルソナ使い達。
彼らとは初めて会ったはずなのに、どうもそんな気がしない。
それに――、「いない」と思ってしまうのだ。
浮かぶのは、儚い笑顔と青。
そして「また必ず会おう」という言葉。
それがなんなのか、その言葉をどこで聞いたのか、分からない。
分からないが、彼らと関係ある気がして――。
「どうしたんだよ。なんか気になることでもあるのか?」
悠の視線を追って、この世界で初めて会ったはずの彼らへと視線を向けて、陽介は問う。
陽介へと視線を移して、少し考えて、悠は言葉を紡いだ。
「……なあ、陽介。彼らにどこかで会った気がするんだが」
「……俺も、そんな気がしてたんだよな。でも、分からない」
「ああ。会ったという記憶はない」
「そうなんだよなあ」
そう言って、陽介は黙り込む。
彼らとはここで初めて会ったはずだ。
その前に会ったという記憶はない。
それなのに、どこかで会っているはずだと思う自分がいるのだ。
そして、この中に居ない誰かが気になってしかたない。
どうしても探さないといけない気がして――けれど、誰を探せばいいのかも分からない。
約束したのに、そう思うのに、いつ、誰と、どんな約束をしたのかが分からない。
そんな漠然とした感覚だけでは、相手に尋ねる訳にもいかず、溜息を吐き出す。
ほぼ同時に陽介も溜息を吐き出し、顔を見合わせて、互いに微かに笑った。
テレビの外へと出て、皆と別れて、悠と陽介は人の居ない八十神高校の前に立っている。
休日で誰もいないはずの学校を眺めて、悠は言葉を紡いだ。
「あの人達と、どこであったんだろうな」
「……分からない。俺達以外のペルソナ使いと会って、忘れるはずないと思うんだけど」
「そうなんだよな。でも、気のせいじゃないと思う。どこかで会ってるはずだ」
「ああ、俺もそう思う」
結局、陽介以外の誰とも、この話は出来なかった。
どこかで会ってるはずなのに、会ったという記憶がない。
だから、誰かに尋ねる事も出来なかったのだ。
おかしな事を言っていると思われるとか、そんなことを思ったわけじゃない。
仲間の事は信じている。
きっと彼らは、悠が尋ねれば、真剣に考えてくれるだろう。
だからこそ、言えない。
ただでさえおかしな事が起こったばかりなのだ。
これ以上の負担を、掛けたくないというのもある。
彼らが後で知れば、何故何も言ってくれなかったのかと言われるだろうが、それでもこんな曖昧な事で悩ませるわけにもいかない。
そういえば、事件を追っていたあの日々もそうだったなと思う。
あの時は、陽介にさえ何も言わなくて、何で何も言わないんだと良く言われた。
思い出し、微かに笑う。
「なんだよ」
「いや、ちょっと思い出してた。……事件を追ってた時、良く陽介に、何で何も言わないんだよ、って言われたよな」
「ああ、言ったな。まあそれを思えば今回は、俺に言っただけいいか」
わざとおどけたように、陽介は言う。
陽介だって、悠以外の誰にも言う気なんてないくせにとは言わないことにする。
自分の記憶さえもあやふやなこんな事を、どう言えばいいのかも分からない。
陽介だからこそ、悠だからこそ、互いに言えるのだ。
会った記憶はないのに――どこかで会っているはずだと思う。
そのどちらもが間違っていない気がして。
だからこそ、どう説明すればいいのか分からない。
「まあ、また会うだろな、彼らには」
「そうだな。……終わってないからな」
「ああ」
だから次こそはきっと、彼に会えると信じて。
隣を見れば、大丈夫だと言わんばかりに笑っている陽介が居る。
その笑顔に、癒されるのを感じる。
あの頃も今も、そしてこれから先も。
たとえ距離が離れても、その存在はずっと共に在ると信じられるから。
この笑顔だけは、失くすことはないと、何故かそんなことを思う。
まるで何かを失くしたことがあるみたいだと思いながら、もう一度無人の学校を眺めた。
END
2014/08/09up : 紅希