■おひるごはん

「おおー!!きょうのおひるごはんはどーえらいごうかだなーあ? シオえらかったからかー?」
テーブルの上に座り上機嫌でバケツを覗き込む妙な少女を目の前に俺はちょっとため息を付いた

特命で俺がずっと秘密裏に追いかけてた所謂『高度な知識を持つ人間化したアラガミ』
シオって名前は俺が付けた それ以来妙に俺になついている
他人を極力避けてきた俺がシオの面倒だけは(たまにだが)手伝ってるのを見た周りの暇人は
勝手に詮索して色恋沙汰だ何だとウダウダ言ってはいるようだがそんな事はどうでもいい
俺のシオに対しての感情はそもそもそういう感じじゃないからな

コイツが俺と同じようにクソッたれ共のオモチャにされるのが許せないのと
後は親近感…?違う…何て言えばいいんだ こういう感覚ってのはよ…

アラガミ交じりの俺と人間化したアラガミのシオ
そんなどちらからもはみ出した2人がとりあえず人間の中で生活している
そんな中でお互いがお互いを必要とする 馴れ合いや傷の舐めあいじゃなくて
もっと…そう体の奥深い所に在る何かが惹かれあうような…あー良くわかんねえからヤメだ!

まあ当のシオといえばそんな周りの事はお構い無しにやりたい放題だ
見た目はほぼ人間と同じだが普通の服は全く着られねえし飯はアラガミ素材のみ
言葉使いは只今お聞きの通りといった有様だ 3歳児よりヒデエときている

「うおーーーーーいっただきまーーーーーっす」
今もテーブルの上でバケツに顔を突っ込んで大変優雅にお食事中だ
シオの食事風景を見ているとやっぱりこいつはアラガミなんだと実感させられる

「だから…テーブルには座るな 椅子に座るのがイヤならせめて床に座れ」
そもそもバケツで飯を出すってのが間違ってるといえば間違っている
しかしアラガミ素材を皿にのせてフォークで食えってもそれはそれで間違っている…様な気がする

「うるさいぞそーま!!そんなこというやつはどんびきです!くうきよめ!だぞ?!」
顔中血だらけにしながら訳のわからない文句が帰ってきたのには驚いた
………誰だこんなクダラねえ言葉教えたヤツは…アリサだな
無駄な言葉教える前に行儀と服の着方を教えろってんだ全く

「うるさい 人の言う事は素直に聞け」

「なに〜〜〜??うるさいだとーちょーむかつくーそーまのあほーばかー」
………誰だよ更にクダラねえ事ばっかシオに教えてるのは!!!…コレはコータか
幼稚園児レベルのオメエが何生意気に人(?)にモノ教えてんだ!!
この調子だと明日位に「ばがらりーだぞ〜〜」とでも言い出しかねねえ 後でちっとしめとくか

「黙れ そういう言葉使いはするんじゃない わかったらさっさと食っちまえ おかわりやらねえぞ」
「おお きょうはもっとごはんたべていいのか? はーごくらくごくらく」
…………いい加減にしろってんだ 誰なんだよこんなオバンくさい言葉教えたのは…
オバンくさい…オバン…あ あぁサク…ゴフゴフ!!

「??さくやはおばん?おばんっておいしいのか?こんどさくやにとってきてもらうぞ!!」
「言うな!!!!!!それは死んでも言うな!!!!!…俺がヤバイ…」
とりあえず何なんだアイツ等は!!寄ってたかってシオにクダラねえ事ばっかり教えやがって!!
世話する俺の身にもなってみろってんだ…

…待て そもそも何で俺が飯の時の作法まで面倒見なきゃいけねえんだ
こういうのこそあの真面目で優等生リーダーの出番じゃねーのかよ そうだろ?
まあそういう俺も口で言うほどイヤじゃねえからここに居るんだけどよ…
それでも最近「ソーマお願い〜」がかなり増えてきてないか?

シオの面倒を見るのが嫌な訳じゃない 
ただコイツのそばにいいると否が応でも俺の中のモノを再認識させられる
そう 俺はコイツと同じバケモノなんだってな

相変わらずな様子で食事を続けるシオを見ながら考える

俺達は一体何の為にここに存在するんだろう
俺はアラガミ退治の為 ただそれだけの為
じゃあシオは?

サカキに言わせりゃシオは『可能性の塊』なんだそうだ
そう アラガミと人間の共存の為の可能性の塊…ただそう上手く事は運ぶのだろうか
今の現状が悲惨なだけにそういっためでたい思考にはどうも納得しがたい

幾ら人間並みの知能を持ち見た目が人間に近くとも所詮はアラガミだ
シオがいつか俺達に襲いかかってきたら?
その時俺達はシオを敵とみなして闘えるのか?
いつか俺の中のアラガミが暴発したら?
俺は一体どうなるんだ?

そんなクダラねえ事ばっかり考えていたら 
「ほんとにあれこれうるさいなあそーまは!おとこがちいせえことうだうだいうんじゃねえよ!
よのなかなるようにしかならねえ〜でもあきらめるな!だぞ?」
と まるで俺の考えを見透かしたかのように真正面から言い放った

おいちょっと待ちやがれ お前今何つった??
ホントに何処のどいつだよ!クダラねえ事ばっかりコイツにコッソリ教えるのは!!

でも冷静になって考えてみりゃあシオの言う通りだ
ま 男が小せぇ事はウダウダ言うもんじゃねえな なるようにしかならねえってのもその通りだ
何処のどいつが教えたかはわからねえがコレはまあいいんじゃねえか?許容範囲ってヤツだな

「シオ それ誰が教えてくれたんだ?」
「わすれたーはらへったっていってたー しおもはら?へった?っていったら
おなかすいたのこと だって あとはわかんなーーーい おぼえてたしおえらい?」
空っぽのバケツをぶん回しながら答えつつシオはテーブルから飛び降りた

「…忘れてたらえらくないだろ 飯を食ったらごちそうさまだ バケツはテーブルに置いとけ それと…」
「おお!ごちそうさま!はらいっぱい!お!これはおやつか?」
「…おやつじゃねえ タオルだ テメエの顔を拭きやがれ…」

シオにタオルを渡しながら考えた 一体誰がこの言葉を?
俺達と接触する前に誰か他の人間と接触したのか?
いや 一般市民が接触するなんて不可能だ シオに会う前に確実にアラガミの腹の中だ
ならば俺達と同類?
俺達以外の同類が接触したのなら何らかの報告があのクソ親父に伝わっているはずだ
だか今の所親父にはシオの存在には気付かれていない じゃあ一体誰が…

「なるようにしかならないけどあきらめるな…か アイツなら言いそうなんだがな…」
「あいつ?あいつっておいしいのか?こんどたべたいぞ?うげーこのおやつちょーまずいぞ?」
「……たぶん不味いぞ あいつは…ってだからそれは食いモンじゃねえ!人の話を聞け!!
あ あいつも食いモンじゃねえぞ…」

半分以上かじられたタオルをシオから取り上げつつ とある可能性と僅かな希望が
俺の中に沸いてきている事に俺自身が1番驚いていた

「もしかしてあいつ…生きてるのか?」
ありえねえと思いつつもその考えを払拭できない自分に苛立ちつつ席を立った

「お?そーまおでかけか?」
「あ?ああこれから仕事だ」
「おーいってらっさーーーい おしごとがんばれよー しおのごはんたのむぞー」
「へいへい…」

シオの部屋を出てエントランスに向かうエレベーターの中でため息を付く
これじゃあサカキの事を楽観主義のおめでてえヤツなんて言えなくなるじゃねえか 
シオのわけのわからん話と更にわけのわからん言葉のみで何の確証もねえってのに
浮き足立ってる自分がバカバカしくて笑えて来た

へたすりゃサカキよりひでえレベルのおめでてえヤツだぜ 俺ってヤツは 

「ま なるようにしかならねえ でもあきらめるな だな」
さっきのシオの言葉をエレベーターの中で繰り返す

うだうだしてても始まらねえ 無駄足かもしれないが何にもやらないよりはマシだ
しかも全くあてのない話だ 当分1人でコッソリ探ってみるしかないだろうがな

あいつが生きてるっていう万に一つ以下の可能性に賭けてみるってのも
たまにゃあいいもんじゃねえか?
なあ リンドウ?


チン! 乾いた到着音が鳴り響きエレベーターの扉が開く
さぁて到着…今から俺のくっだらねえ賭けの始まりだ 



END



2011/02/20up : はてにゃん