■同じ空の下
よぉ、ひさしぶり。元気してっか?
ま、普通にメールとか返ってくるし、心配してないけどさ。
てか、お前が元気じゃねーのなんか想像できねーし。
こっちにいる間、お前、めちゃくちゃハードな生活してたじゃん?
いっつも学年トップクラスの成績とるくらい勉強して。
部活かけもちして、委員会活動押し付けられて、バイトまでして。
学校でも街中でも何かいろんなヤツから声かけられて、相談受けて。
家に帰れば菜々子ちゃんの“お兄ちゃん”やって。
ホント、どんだけだって思ってたよ。
俺なんか、テレビん中で戦うだけでヘロヘロだったってのによ。
なぁ、聞いても良いか?
って言っても手紙だから勝手に聞くけどよ。
お前、あの事件のこと、今も思い出したりするか?………俺は、あるよ。
他のメンバーがどう思ってんのかまでは知らねーけど。
それ以前に、あの事件のことを口に出すこと自体、何となくタブーな感じで。
何かの拍子に話題になることもあるっちゃあるんだけどさ。
ピキピキピキーーーって、空気が凍りつくんだよな、やっぱり。
里中なんか言葉や表情より先に手とか足が出んだろ。
俺が何回、アイツの鉄拳食らったか、お前なら予想つくんじゃないか?
そんな感じだから、たぶん皆そうなんだろうけど、モヤモヤしてても何も言えずにいる。
今、テレビの中に入れたとしたら、また“もう一人の自分”が出てくるんじゃないかとか思う。
外側に出してる自分と、あの事件のことをモヤモヤ考えてる自分とがかけ離れすぎてて。
他のヤツらに言ったらそれこそボコボコにされそうだから言えないけどさ。
―――お前にだから、言ってもいいかな。
つーか、聞いてくんね? マジでもう、限界。
あの事件が終わったのは良かったって思ってる。
それは嘘じゃない。
小西先輩もちょっとは安らかに眠れんのかなって思うし。
けど俺……あの事件を追ってた頃に戻りたいって思いもあるんだ、確実に。
あ、だからっつって、またあんな連続殺人事件が起きればいいと思ってるわけじゃないからな。
そうじゃなくて……俺、お前みたいに伝達力とか無いから上手く書けないけど。
あの頃って、すげーいっぱいいっぱいだったんだよ。
いろんな意味で苦しかったせいもあるんだけど、それだけじゃなくて。
テレビん中入りたいから皆に声かけんぞー、とか。
次に何かありそうなのは何日後だから、それまでにコレやるぞー、とか。
明日学校に行ったらお前に何話そう、とか。
あーでも待てそうにないから今夜のうちに電話かけちまおうかな、とか。
密度って言葉が合ってんのか分かんないけど、濃かったよな。毎日が。
今はそうじゃないじゃん?
仲が悪くなった訳じゃないのに、なんか距離があるっつーか。
お前に至っては稲羽にすら居ないんだから。
…………お前も、俺たちに会えなくて、寂しいとか思うこと、あんのかな。
俺、本気で愚痴ってんな。カッコわりぃ。
これ読んで即電話かけてくるとか、ナシな。
どんな顔していいか分かんねーし。(………あ、今、電話じゃ顔関係ないとか思ったろ!)
あー、書いた書いた!
もうこれ以上、愚痴んのやめとくわ。
俺の字、見るのもひさしぶりだったろ?
つーか俺も授業のノート以外でこんなに字書いたの、ひさしぶりだわ。
ホントはメールでも良かったんだろうけど、何か手紙書きたくてさ。
いつだっけか、迷惑メール来っけどアドレス変えたくねーんだって話した事、あったろ?
転校ばっかしてるし、前に通ってた学校の友達が連絡してくるかもしれないから、って。
『来るはず無いんだけど』ってとこまで、お前に聞こえたかどうか分かんないけど。
お前が稲羽から居なくなって、ちょっと考えたんだよ。
………お前も、そういう“友達”みたいになんのかなとか。
今までの“友達”は楽しければそれで良い、って感じだったんだ。
向こうだって俺のこと、その程度に思ってたと思うぜ。
だとしたら、こっちも転校する前みたいなノリで連絡とか出来ねーじゃん?
考えてみたら、こっちから連絡する気もない相手が、好き好んで連絡くれるはずも無いんだよな。
けど、お前がそういうヤツの1人に紛れんのは、嫌だって思ったんだ。
だから………お前にだけは、俺の方から手紙とか書いてしまいました、以上!
気軽に言える距離じゃないかもしんないけど、時間があったら会いに来いよ。
俺たちはもう、霧に覆われたテレビん中を彷徨ってるわけじゃない。
同じ空の下に居るんだから、会いたいって思ってれば、いつか絶対会える。
そん時はどんだけ里中の鉄拳食らおうと、皆集めて迎えに行くから。
………って、リーダーは皆に慕われてっから、嫌だなんて言うヤツ居ないよな。
待ってるからな、マジで。
じゃ、その時まで元気でいろよ。またな、相棒! ―――――――――――― 花村 陽介
END
2013/11/23up : 春宵