■刈り取る者
ダンジョン内にある宝箱を開けようとすると、これまでの戦いの中で培われた勘なのか、危険だと何かが告げる。
ナビのりせも危険だと、だから開けるなと告げていた。
だがそれでも――悠はりせの叫ぶような声も無視してその宝箱を開ける。
どうしてもこの宝箱から現れる奴と戦う必要があるからだ。
現れたのは「刈り取る者」アルカナ死神のシャドウだ。
ダンジョン内で出会うどのシャドウよりも強敵だろう。
現れたシャドウを見て、ここまで共に戦ってきた仲間達から動揺が伝わって来る。
それらを代弁するように、陽介が言葉を紡いだ。
「お、おい鳴上。何だよこいつ」
「刈り取る者だ。アルカナは死神」
「そんな事聞いてるんじゃねえって。お前、落ち着いてんな。つーかこいつやべえだろ絶対」
「これ以上武器にお金は掛けられないんだ。だから頑張ってくれ」
「何だよそれ、どういう事だよ」
「こいつを倒して武器を手に入れる!」
テレビの中のダンジョン内で入手した素材をだいだら.に売って、それらの素材からだいだらの親父さんが武器を作る。
それをまた買う訳だが――ダンジョン内のシャドウもどんどん強くなってその度に武器、防具を人数分買い替えなくてはならなくて。
ダンジョン内で入手した素材を売ってお金に変えて、その他に悠自身いくつもバイトを掛け持ちしているが、それでもお金が追いつかない。
誰か一人分でもいい、強力な武器が欲しかった。
そんな時だ、ダンジョン内の宝箱から稀に現れる刈り取る者を倒すと強力な武器が手に入ると知ったのは。
危険なのは分かっている。
今の自分達のレベルだと苦戦するだろうと言う事も。
それでも、本当にもう、限界なのだ。
これ以上バイトを増やす事は流石の悠でも無理だ。
部活を二つ掛け持ちして、部屋で出来るバイトを二つに、家庭教師、学童保育、病院清掃のバイト。
その他に、夜、スナック紫路宮でもたまにバイトしている。
学校や商店街、河川敷などでこんな素材が欲しいと頼まれればテレビの中へと入って取って来て。
そのお礼にとアイテムやお金を貰う事もある。
だが、それだけしても、本当に限界なのだ。
だから誰か一人分でもいい、強力な武器を手に入れれば、その分は当分買わなくて済むはずだ。
そう、悠は考えたのだ。
刈り取る者をじっと睨みつけるように見ている悠をしばらく見ていた陽介が、溜息を吐き出し告げる。
「何か良くわかんね―けど、こいつと戦う必要があるってんなら、仕方ねえか」
「悪いな、頑張ってくれ」
そう言えば、陽介も千枝も雪子も、分かったと緊張した面持ちで頷いてくれる。
簡単に勝てる相手ではない。
今の自分達のレベルなら、勝算は五分だ。
それでも、挑まない訳にはいかない。
一人分でもいい、強力な武器がどうしても欲しかった。
バイトはこれ以上は増やせない。
体力的な意味でも時間的な意味でも、無理だ。
だからもう、これしか方法はないのだ!
こいつに出会う為に随分と苦労もした。
だからこそ、何としても倒して、武器を手に入れる!
「行くぞ」
そう悠が声を掛ければ、陽介も千枝も雪子も戦闘態勢に入る。
刈り取る者が持っている銃の音が響き、戦闘開始を告げる。
防御力、攻撃力、素早さ、命中回避率を上げる。
掛けられるだけの補助スキルを掛けて、斬りかかる。
ダメージは中々通らない。
硬いな、と陽介のぼやく声が聞こえる。
刈り取る者は二回攻撃のため、厄介だ。
ガードキルを連続で使ってくる時はまだいいが、コンセントレイト、メギドラオンの攻撃はかなり痛い。
ハマ、ムドの光、闇属性の即死攻撃も、運の値の低い陽介が食らい易く、こちらも結構厄介だ。
ホムンクルス足りるかな、と悠は思う。
足りなかったら、地返しの玉か反魂香を使うしかない。
それか、雪子のリカームを使うか。
そんな事を考えながら、地道に刈り取る者のHPを削って行く。
「こいつホント中々倒れない」
疲れたように千枝が言い、無言で雪子が頷く。
「シャドウの体力、半分減ったよ。頑張って。でも無理しないで」
心配そうなりせの声が響く。
それに「大丈夫だ、任せとけ」と力強く陽介が答えた。
陽介のその明るい物言いに、仲間の気分が少し浮上するのが分かる。
ホント頼りになる、と思い陽介を見れば、それに気付いたのか陽介も悠の方をちらりと見て、片目を瞑って見せる。
分かってるとでも言いたげなその仕草に、悠は微かに笑った。
途中からほぼ雪子が回復に徹して、それでも間に合わない時は悠が回復系のペルソナに付け替えて仲間を回復して。
そして、どうにか刈り取る者を倒す。
手に入れたのは、悠の武器、十握剣だ。
攻撃力408、命中率96。その上、クリティカル率が大幅にアップというかなり強力な武器だ。
満足気に入手した武器を眺めて悠は呟く。
「これで、俺の武器は買わなくて済むな」
「相棒が満足そうで何より」
「ああ、助かった」
「ところで、一旦戻って少し休まねえ?」
「ああ、そうだな。そうするか」
りせに辺りにシャドウの気配がないかどうか尋ねる。
大丈夫だと言うりせの言葉を聞いて、悠はカエレールを使って一旦エントランスへと戻る。
「先輩ら、どうしたんすか」
ぐったりとした様子の陽介、千枝、雪子を見て、完二が問う。
何故か一人だけあまり疲れた様子もなく、それどころか満足気な悠を見てますます完二は不思議そうな表情をする。
「強敵と戦ったからな」
「へえ、どんな奴っすか」
「そのうち完二も戦う時が来る」
悠のその言葉に、陽介が嫌そうに言葉を紡ぐ。
「って事は、まだあいつと戦う気なのか、相棒」
「当然。皆の武器を手に入れるまでは戦う!」
「あー、そうですか。……今日はもう流石に奴とは戦わない、よな?」
「今日もう一回あいつに会うのは、難しいだろうな」
その悠の言葉に「良かった」と陽介、千枝、雪子は内心で思う。
仲間のシャドウという強敵とこれまで戦っては来たが、それとはケタ違いの強さなのだ。
出来る事ならもう戦いたくはないが、悠の様子からそれは無理なのだと言う事は分かる。
だから、今日はもう奴と戦わないと知って、ほっとしたのだ。
一日に何度も戦いたい相手ではない。
というか出来る事ならもう今日はこのまま帰りたいと思っていた。
そんな様子の仲間達を眺めて、悠は言葉を紡ぐ。
「今日はこれで引きあげるか」
流石に疲れた様子の皆を見て、悠は告げる。
「なあ、鳴上」
「なんだ、陽介」
「お前、何でそんなに元気なの」
「……何故と言われても、困るんだが」
本当に困惑した様子で悠は告げる。
そんな悠を見て、陽介は疲れたように溜息を吐き出した。
「まあいいや。取り敢えず、帰ろうぜ。流石に疲れた」
陽介のその言葉に頷いて、エントランスに設置されたテレビから現実の世界へと戻る。
疲れた様子で帰って行く仲間達を見送ってから、悠も堂島家へと向かって歩き出した。
その後本当に、仲間全員分の武器を入手するまで、刈り取る者と戦う事になる。
完二もその後刈り取る者と実際戦って、あの時の陽介達の疲れた様子に納得していた。
ジャラジャラと、ダンジョン内に鎖の音が響き渡る。
また今日も、刈り取る者との闘いが――始まる。
END
2012/07/22up : 紅希