■欠片

思い出の欠片をどんなに集めても、今の、俺が本来居るべきあの時代の君とは重ならない。
教師としての自分、その生徒である君。
此処に居る君は確かに昔の、俺が知っている君だけれど。
でも、今の俺と同じ年齢になっているあの時代の君が動き喋る姿が見たい。
君に、会いたいのに会えない。
だから俺は、ここに居る君の精神を、俺が会いたいと願う君に同化させる。
そうすれば俺は、君に会えるから。
今のままではどんなに会いたいと願っても会えない。

いつか君が目覚めるのなら、その可能性があるのなら。
君が目覚めるまでいつまででも待つ事は出来る。
けれど、今のままでは君は目覚めない。君に会う事は出来ない。
君を助けると誓ったあの日から、もう10年も経ってしまった。
それでも君が目覚める気配はない。
だから――。

「待ってて撫子。俺が君を助けるから」

あの時、意識のない君に掛けた言葉をもう一度紡ぐ。
俺がもう一度君に会いたいから、だから目覚めさせる。
どんな手を使っても、何を犠牲にしても。必ず、叶える。
それだけが、今の俺の願いだから。

「助ける? 自分のしてること分かってるのか、こいつ」
「まあまあ、かえるくん。そんな事分かってますよ、この人はきっと」
「だとしたら、そうとう性格悪いよな」
「ですね」
「うさぎさんもかえるくんも、酷いな。――あの時は、本当にそう思ったんだよ。これからやろうとしているような方法じゃなくて、ね」

あの時は確かに、純粋に彼女を助けたいと、そう思った。
出来ると、思ったのだ。
思い上がりもいいところだと思う。
これだけの年月を掛けても、彼女を目覚めさせることは出来ない。
けれど、やっと叶うのだ。
彼女に会える。
俺が本来居るはずの、あの時代の彼女に、会えるのだ。もう直ぐ。

「やっぱりこいつは、悪魔か魔王だな」
「そうですね。正義の味方じゃない事は確かですね」
「何だっていいよ。彼女に会えるのなら、ね」

それ以外の事は、どうだっていいのだ。
彼女が居ればそれでいい。俺が本来居るべきあの時代の彼女が、動いて喋ってくれるなら、それだけでいい。

「開き直りやがった、やだね、ホント」
「だから、何を言っても無駄ですよ。この人全部分かってるんですから、どうせ、ね」

かえるとうさぎの会話を聞いて苦笑する。
分かっている、そう分かっているのだ。
こんなことをしても彼女が喜ばない事くらい。
こんなこと彼女が望んでいないことくらい。
それでも――今更やめられない。
彼女の為ではなく、自分の為に。
彼女に会いたい、それだけが、願い。
その願いが叶うなら、他は何もいらないのだから。

思い出の欠片を繋ぎ合せても、彼女は小さいままで。
今の、眠っている彼女とは重ならない。
他の誰でもない彼女であることは変わりないけれどそれでも。
今の彼女に会いたいのだ。

「俺は俺の願いを叶えるよ。何を犠牲にしても、ね」
「分かってますよ、そんな事わざわざ言わなくても」

うさぎに続きかえるが何か言おうとした瞬間、扉が開く音がして、次いで呆れたような声が届く。

「……人を呼び出しておいて、何やってるんですか、あなたは」
「ああ、ビショップ」
「ああ、ビショップじゃありませんよ。待ち合わせの場所に現れないから仕方なく来てみれば、何で此処に居るんですか」
「ごめんごめん。うさぎさんとかえるくんと話してたらつい、ね」
「俺たちのせいにするなよ」
「全くです。僕たちと話してたのなんて僅かな時間じゃないですか」
「全く嘘ってわけじゃないだろう? それよりビショップ。……そろそろ準備は出来た?」
「ええ、出来ましたよ」
「……そう。なら、始めようか」

やっと君に会える。
思い出の中の君じゃなく、本来の君に会える。
君を目覚めさせることが、出来る。

君にもう一度会うための計画を――始めよう。



END



2013/02/17up : 紅希