■久遠の絆
*P4A True End Episode「No One is Alone」のネタばれあり。
都会へと帰る電車の中、手にした、仲間と撮った写真を見ながら思う。
離れていても、繋いだ絆は切れたりしないのだと。ずっと変わらず続いて行くのだと。
そう、心の底から信じられた。
だけど、今はそう思えるが、ずっと不安だったのだ。
初めて手にした失くしたくないと思ったもの。
それが、稲羽市で出会った仲間だった。
繋いだ絆が切れないと信じられなくて。
離れてしまう事に、失くしてしまう事に怯えていた。
離れてしまったら、また――。
そう、何度も経験して来た事だからこそ、尚更怖かった。
大丈夫だと、彼らならきっと、そう思う反面。
距離が離れたら終わりなのだと、何度も経験したじゃないかとも思う。
だから――真実なんて要らないと、仲間が居ればそれでいいと。
それが偽りの日々でも構わないと、そう思ってしまった。
イザナミとの戦いの最中、黒いモノによって引きずり込まれた仲間達。
自分を庇って陽介も飲みこまれて――そして、その場には自分とイザナミ以外の誰もいなくなった。
目の前で消えていく仲間を見るのは本当に辛くて。
一人になる事への恐怖に囚われた。
失くしたくないないと思ったモノを失くすくらいなら――こんな真実なら要らないと、そう思った。
大切な仲間を失って、たった一人前に進む事など出来ないと思った。
仲間さえ傍に居ればそれでいい。
たとえ偽りの日々でも、彼らが居てくれればそれだけでいい、と。
もう一人にはなりたくないのだ、と。
その結果偽りの日々を繰り返す事になったのだけれど。
繰り返される、3月20日。
どこかで可笑しいと気付きながらも、目を閉じて見ない振りをしていた。
失くしたくないと思ったモノを手にしてしまったからこそ、一人になる事への恐怖は大きかったから。
孤独には慣れていた。
稲羽に来るまでは家に帰っても誰もいないのが当たり前で。
一人で夕食を摂るのも日常だった。
両親は悠が眠った後に帰って来て、起きる前に出ていく。
だからいつだって、一人だったのだ。
それなのに。
稲羽に来て、家に帰れば「おかえり」と言ってくれる人が居るのが当たり前になって。
そして、友達も出来た。
事件を通じて出来た仲間は、事件だけの繋がりの筈がかけがえのないモノになっていって。
彼らの存在が自分の中で大きくなって行く事に戸惑いを覚えて、何度も何度も言い聞かせた。
ここには一年しか居ないのだと。
事件があるからこその関係で、事件が終われば彼らとの関係も終わりなのだと。
そして、今までと同じように距離が離れてしまえば、終わりなのだと。
だから深入りするなと。今までと同じように距離を置いて接すればいいと。
そう何度も何度も言い聞かせていた。
それなのに、従妹の菜々子も、特別捜査隊の仲間達も。
それ以外の友人や、あの町で知り会った人達も。
悠の中で彼らの存在はどんどん大きくなっていって、誤魔化す事なんて出来なくなって。
失くしたくない、そう思った。
そう思いながらも、彼らとの絆がずっと続くとは信じられなかったのだ。
距離が離れてしまった後、今までと同じ関係を維持するのがどれだけ難しいか、体験したからこそ分かるから。
だからこそ、信じたいと思っていても、信じ切れずにいたのだ。
子供のころから両親の仕事の都合で転校の繰り返しで。
同じ学校には長くても三年程度が当たり前だった。
短い時は今回のように一年で転校なんて事もあった。
最初のうちは友達と別れるのが辛くて、手紙を書くと、必ず会いに来ると、友人達も悠も互いにそう言い合った。
けれど、手紙も転校してしばらくは来るけれどそれも来なくなって――そして、転校した悠に会いに来た友人は誰もいなかった。
今ならば分かることもある。
子供が簡単に会いに来れるような距離じゃなかったと言う事も。
現に悠も、転校した後友人に会いに行った事は一度もないのだから。
けれど、あの頃は本当にそれがショックだった。
そんな事が何度か続けば、今度は同じ事が起こっても大丈夫なように、自ら友人達との間の距離を置くようになる。
そうして、稲羽に行くまでずっと浅い友人関係しか築いてこなかった。
いずれ離れると分かっているから。
離れた後連絡が途絶えても、傷付かないように。
そうやって、自らを守って来たのだ。
「悠」
そう、陽介に名前で呼ばれるようになった久保美津雄のシャドウとの戦い以来、陽介との距離は一気に縮まって。
代わりに、その戦いで見せられた幻覚のせいで尚更、失くす事への恐怖は大きくなっていた。
彼らを信じられない訳じゃない。
美津雄のシャドウから逃れられたのは、仲間達のお陰だから。
でもそれでも――あの時見せられた幻覚が、真実にならない保証はない。
幻覚とは言え、悠は一度体験してしまったのだ。
仲間が悠から離れて行ってしまう、あるかもしれない未来の日々を。
事件が終わり、少しずつ少しずつ仲間との距離が開いて行くあの日々は、本当に幻覚だったのかと疑いたくなるほど、リアルだった。
事件があるからこその関係。
そう、自ら言い聞かせてきた事が現実となった日々。
彼らとの関係を維持したいがために、事件に執着していた自分。
あのままあの日々が続けば、いずれ自分で事件を起こしたかもしれないと、そう思う程に追い詰められていた。
だからこそ、あの時の恐怖は簡単には忘れられない。
彼らとの絆の証であるペルソナを呼び出して、そうして繋いだ絆は確かにあるのだとそう実感もした。
それでも、不安が完全に消える事はなかったのだ。
そうして迎えた3月20日。
拘置所の足立から届いた手紙を元に、悠がテレビに入る力を得た切っ掛けを思い出した。
そして、全ての元凶とも言える存在と戦い。
仲間達が黒いモノに飲み込まれ消えて行って。
そうしてその場に残ったのは悠と、全ての元凶とも言えるイザナミのみ。
失くしたくないと思っていたモノを目の前で失くし、現実を拒絶した。
菜々子が誘拐されて、その後一度心臓が止まって。
あの時も同じくらいに絶望を感じたが、それでもあの時は、支えてくれる仲間が居た。
だか、今は――誰も、居ない。
そんな現実要らないと、本気で思ってしまったのだ。
そこまで思い出して、ふぅと悠は息を吐き出す。
マーガレットのお陰でどうにか抜け出せて、今は良かったと思える。
あのまま仲間が戻って来なかったとしても、それでもきっと、良かったと言えただろう。
繰り返される偽りの日々の中、大切な仲間がずっと傍に居てくれる事に安堵しながらも、どこかで感じていた空しさ。
あのまま偽りの日々を送っていればそれはきっと、大切な仲間を裏切る事にもなる。
真実を掴む為に、彼らはあの時あの場に居たのだから。
「距離なんて関係ない、か」
最後の陽介の言葉を思い出して、悠は微かに笑う。
どれだけ離れても繋いだ絆は切れたりしない。
この先ずっと、続いて行くと信じられる。
あの時、自らと向き合えて良かったと思う。
そうでなければきっと、陽介の言葉を信じる事など出来なかっただろうから。
永遠なんて言葉信じた事がないけれど、でも彼らとの絆だけは、永遠に続くのだと信じられる。
どれだけ距離が離れても、会えない期間がどれだけ続いても、きっと変わらない。
離れてしまう事に寂しさを感じない訳じゃない。
けれど、確かに感じる暖かいものがあるから。
だから、前に進もう。
これから先もずっと、進み続けよう。
それは、闘い続けると言う事だけど、構わない。
一年過ごしたあの街で繋いだ絆がある限り、闘い続けられる。
彼らを、自分を信じて――。
END
2012/08/26up : 紅希