合同企画「084:しるし」


■しるし

世界の管理者であるポラリスに会うのは明日だ。
後は寝るだけという状態で、ダイチは考える。
ここまで共に戦ってきた仲間と話し合い、この世界が壊れる前の状態に戻す――世界を復元すると決めた。
それが一番いいと、ダイチも思う。
世界が壊れ、皆それぞれ失くしたものがある。
それを取り戻せるのなら、そんないいことはない。
だが、不安がないと言えば嘘になる。
世界を復元しても、人が変わらなければ、また今回と同じように世界は壊れる。
ポラリスによって、世界は壊される。
そうならない為には変わるしかないが、世界を復元すると言う事は、世界が壊れる前に戻ると言う事で。
それは、ここまで共に戦ってきた仲間と出会った記憶さえもなくなると言う事。
世界が壊れた原因も、変わらなければまた壊れると言うその記憶もなくなると言う事で。
その状態で本当に変われるのか――不安だった。

世界が壊れてから今日までの出来事を思い出せる何か、そう印になるようなものを持っていれば。
そうすればそれを見れば全て思い出せる。
だがおそらく、世界が復元されたらその”印”になるものもなくなるのだろう。
ならばどうすればいいのか。
考えても答えなんで出なくて。
不安ばかりが募っていく。
仲間と話し合い決めたことを覆すつもりも今更迷うつもりもない。
ただ、今日までの出来事をすべて忘れ、人は今までと何も変わらず、また世界が壊れたら。
その不安がどうしても拭えない。
絶対に忘れない、そう強く思う事は出来ても、それが不可能だと言う事もまた、分かっているのだ。
仲間と話し合い選んだ道は最善だと思っていても、不安になる。

眠れそうにないと諦めて、ダイチは親友でありリーダーであるヒビキの部屋へと向かう。
ノックして、直ぐに返事があったことにほっとして、ドアを開けた。

「どうした?」

促されてベッドへと腰を下ろした途端、そう問われる。
逡巡し、ダイチは言葉を紡いだ。
世界を復元した後の事を不安に思っていることを。
全て話して、ダイチはほっと息を吐き出した。
「なんだそんなことか」と隣から声が聞こえて、ダイチは驚く。
微かに笑って、ヒビキは言葉を紡いだ。

「大丈夫だ。記憶がなくなっても、皆と出会い共に戦った事実はなくならない」
「……」
「世界から消えても、俺達の中には残ってる。だから、前と同じ結果にはならない。それに、皆かなり個性的だから、復元された世界で会えたら、何かは思い出すんじゃないか」
「……そう、だな。そうだよな!」

そう言ってダイチは笑う。
やっぱりヒビキは凄いと、そう思っていた。
確かにそうだ。
世界が壊れてから今日まで、必死に前に進んできた。
突きつけられた現実に、心が折れたこともあった。
逃げ出したくなったことだって何度もある。
何で俺が――そう思った事も、何度もあった。
戦う力を手にして、戦いに身を投じて、けれど本当は、戦いたくなんてなかった。
それでも必死に、仲間と共に、進んできた。
それだけは、事実だ。
世界からも記憶からも、消えてしまうのかもしれない。
それでも、何も残らないなんて事は、ないはずだ。
今日までの出来事は、実際に体験したことなのだ。
世界が復元されても、その事実だけは、なくならない。
自分の中に、何か残るものは必ずある。
それに、ヒビキが言うとおり、きっと彼らに会ったら、記憶なんてなくても、何か思う事があるだろう。
彼ら自身がきっと”印”なんだろうから。

「復元された世界でも、皆に会えたらいいな」
「会えるさ」

ダイチの言葉に当然と言うようにヒビキが返して、二人は顔を見合わせて微かに笑う。
復元された世界で、ヒビキとイオには確実に会える。
ヒビキは親友だし、イオとは同じ学校なのだから。
それ以外の仲間にも、きっと会える。
そう信じて、明日へと向かう。

世界を復元し、失くしたものを取り戻す為に。



END



2015/05/20up : 紅希