特別な存在

ペルソナ4アニメ、7話のネタばれありです。

まだアニメを見てなくて、ネタばれが嫌な方はご注意ください。

アニメネタですね。鳴上←陽介みたいな感じの話、です。

では、大丈夫な方は続きからどうぞ。

————————————————————————————————————————————————

無事に完二を救出して、完二が家に帰るのを見届けて、解散となる。

夕方とは言え辺りは暗くなり始めていて、だからなのだろう、鳴上は里中と天城に向かって「送って行くよ」と告げる。

だが、女子二人は、TVの中に居た時から様子が可笑しくて。

陽介にはその原因は分かっていたが、鳴上は分かっていない。疲れたんだろうってくらいに思っているんだろう。

ちらりと、明らかに鳴上を意識している様子の二人を見て、陽介は溜息を吐きだす。

目の前であんなモノ見せられればなあ、と陽介は思う。

それが自分に向けられたモノじゃないと分かっていても、あの破壊力は凄まじかった。

陽介でさえそう思うんだから、彼女達にして見れば尚更だろう。

案の定女子二人は、大丈夫だと鳴上の申し出を断って、帰って行く。

そしてその場には陽介と鳴上の二人が残された。

完二のシャドウが作り上げたであろうあの場所は、本当に凄かった。

無事に帰って来れて良かったと、今日ほど思ったことはない。

だがそれ以上に、あの鳴上の言葉が頭から離れないのだ。

あの言葉の破壊力は、先程までここに居た女子二人を見れば分かる。

だが陽介は、あの言葉自体に思う事がある訳じゃないのだ。

「可愛いよ」

そんな一言で、鳴上は完二という存在を受け入れた。

恐らくあれは、あのウサギのストラップの事を言っているんだろう。

だが、完二に笑みを向けて告げられた言葉は――完二に向けたモノだと勘違いされても仕方がない。

あの場に居た全員が、あの時の言葉に含まれていた甘さに、完二と似たような反応をしてしまったくらいなのだから。

無自覚なんだよな、絶対に。

そう思いながら陽介は鳴上を見る。

なんだ? と言わんばかりの視線を向けられて、陽介は思わず溜息をもらした。

「花村?」

その溜息をどう取ったのか、鳴上が気遣うような声で陽介の名を呼ぶ。

疲れてはいる。だから早く帰りたいと思う。

それなのにこの場から動けないのは――渦巻く感情があるからだ。

特別だと思っていた。

鳴上にとって自分の存在は。いや、特別な存在でいたかったのだ。

だからこそ、鳴上に対して「相棒」とあの時言ったのだから。

そして今日までは確かにそう思っていた。特別な存在なのだと、鳴上の一番近い場所に居るのだと。

だが今は――分からない。

今まで、里中、天城とTVの中でシャドウと戦って助けて来た。

その時だって鳴上は、陽介を受け入れたように、当たり前に里中や天城を受け入れて来た。

それを見ても、こんな風に思う事はなかったのだ、今日までは。

結局バスケ部に入部することになって、一条と上手くやっていることも、あれだけ振り回されたにも関わらず、マネージャーの海老原あいを気にかけていることも知っている。

そんな事を間近で見て来ても、それでも揺らぐことはなかったのだ。

特別な存在なのだと、一番近い場所に居るのだと、思っていた。

それなのに――。

「なあ、鳴上」

「なんだ?」

「――お前さ、あの台詞はどうかと思うぞ」

お前にとって俺ってどういう存在なのか――聞きたい事はそれなのに、言い出せなくて。

だから違う事を言う。

言葉の前の間が気になったのか、鳴上の探るような視線が居心地悪くて、けれど直ぐにその視線は普通のモノへと変わりほっとする。

「あの台詞って?」

「完二に、可愛いよって言っただろ」

「あれは、完二に言った訳じゃないんだけど。でもまあ、完二も可愛いよ」

「……どこだがよ」

そう言って陽介は溜息を吐く。

だから、その言い方はずるいだろと陽介は思う。

本当に完二を可愛いと思ってるんだろうなというのが伝わってくるのだ。

含まれる甘さが、恋愛とかそういう類のモノじゃない事くらいは分かる。

分かるからこそ、もやもやするのか。

不安は大きくなるばかりで、これ以上何を言えばいいのかも分からない。

疲れていて早く帰りたいのに、それはきっと鳴上も同じだろうと思うのに、この場から動くことも出来ない。

聞く勇気だってないくせに――。

「花村」

そう思った途端に、鳴上に名前を呼ばれた。

「何が不安なんだ」

そして続けられた言葉に、陽介は目を見開く。

真っ直ぐに向けられる視線から逃れたいのに逃れられなくて、思わず陽介は俯いた。

沈黙が辺りを支配する。

先ほどよりも辺りは暗くなっていて、いい加減帰らなければいけないと分かっているのに。

動く事が出来ない。

どちらにしろこの状態で鳴上が解放してくれるとも思えなかった。

「お前にとって、俺は――」

俯いたままの状態で、それだけ言うのが精一杯だった。

何故こんなにも、鳴上の特別な存在でありたいと思うのかも良く分からない。

分からないけれど、そう在りたいのだ、どうしても。

「相棒」

「――え?」

「花村は俺の相棒、だろ?」

笑みを浮かべて、鳴上はそう言い切る。

向けられる視線からも、言葉からも、鳴上が確かにそう思っているのが伝わってきた。

「あ、ああ。そうだよ。当たり前だろ?」

そう言えば、鳴上は微かに、けれど楽しそうに笑う。

ああ、分かってんだろうな何もかも、そう思ったが気付かない振りをした。

陽介の不安も何もかも、きっと鳴上は分かっているんだろう。

少し悔しい気はするが、そんなことはどうでも良かった。

渦巻いていた不安は薄れていて、いつの日か完全になくなるのだろう。

すっかり暗くなった空を見上げて、そんな事を思う。

「帰ろう」

「そうだな」

鳴上の言葉に肯定の返事を返して陽介は歩き出す。

それを確かめてから鳴上が歩き出したのが分かった。

————————————————————————————————————————————————

終わり方が微妙な気もしますが、小ネタなんで良い事にします。

思い付かないんですよね、良い終わり方が。

あの7話の番長の「可愛いと思う」「可愛いよ」はずるいと思うのです。

丁度その時ツイッターを見たんですが、視聴者も落としてましたからね、番長。

あの台詞だけ、ちょっと声のトーンが変わったんですよね。ちょっと甘いし(苦笑)

あの微妙に含まれる甘さはなんだったんですかね。あれは演出の方の指示なのか、中の人がそうしたのか。

分かりませんが、聞いてて、なんだこれと思いましたよ。

あれを見てた陽介達だって平然とはしてられないでしょう、あれじゃあ、ね。

と思ったんで書いてみました。

天然たらしだよなあ、アニメの番長は。あれは落ちるよなあと思ったよ。

コメント